ガウン

掌に収まる小型な銃でまた1人天に召された。

こいつも天国には行けないだろう。

そして俺も。

そんなことを望まなくなったのはいつからだろう。

カツン

後ろで靴音がして振り返る。

そこには黒いドレスの女が立っていた。

人とは思えないほどの白い肌と赤い目が印象的な綺麗な女だった。

俺は無言で銃を向ける。

「あら、最悪のタイミングって感じかしら」

女の声に焦りや恐怖はなかった。

むしろその声には余裕さえあるように感じられた。

「困ったわね」

溜息をつく仕草も優雅だった。

こんな女を俺は見たことがなかった。

「通して…下さらないわよね」

無論だと言わんばかりに俺は撃鉄を起こした。

そういえば、どうしてこんなにゆっくりしているんだろう。

見られた瞬間に殺して、それで終わりのはずなのに。

どうして撃てないんだろう。

「ここで見たことは口外しないわ。それで通してくれないかしら」

「それをどうやって証明する?」

何をしているんだろう。

この間にもリスクは上がっているというのに。

「それも、そうよね…でも、そこの人名前も知らないから口外しても私に利益はないのよね」

早く殺さなければ。

でもこの女にどうしようもなく惹きつけられる。

「そうだわ」

そう言って女は懐から一枚の紙を差し出した。

「これ、私の名刺。もし、私が貴方の情報を売った事実があれば殺しても構わないわ」

そこには有名娼館の名前があった。

「私、貴方とは良いおつきあいがしたいわ。何か困ったことがあったら来て頂戴。力になれるかも知れない」

女は艶っぽく微笑うと俺の横をすり抜けていった。

その全てが夢のようだった。

首を振って女の歩いていった方に目をやるとそこには誰もいなかった。

でも、俺の手にはしっかりと紙の感触が残っていて、それだけが女との出会いを証明していた。



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